授業紹介:生活文化論

建築学科住居学コース(女子学生)向けに開講する授業です。日本伝統的住宅の成立過程や実際の建物見学を通して、日本の住まいのもつ生活や文化を学び、今後の住宅設計などに活かすことを目的としています。

2009年度は、前半で太田博太郎氏著『床の間-日本住宅の象徴』の読解を通じて床の間や違い棚など座敷飾りの成立の経緯を学びました。後半は、大正時代の旧小川家住宅(諫早市、国登録有形文化財)、昭和10年開業の雲仙観光ホテル(雲仙市、国登録有形文化財、近代化産業遺産)の見学を通じて、前半で学んだことを実際の建物で体験しました。

ここでは、今年度後半の建物見学の様子をご紹介します。

 

①旧小川家住宅(大正9年・1920、諫早市、国登録有形文化財)

 この地域の医師を務めていた小川法民氏が邸宅として建てた建物です。木造平屋建て(一部2階建て)、瓦葺き、寄棟造りで、間取りは6室の座敷に土間と台所が連続し、式台をもつ格式の高い建物です。

 所有者の樋口氏から建物をゆずり受けた経緯を伺い、茶道の安原先生、嶋崎先生、林先生からは御点前の指導を受けました。最近は、畳の上に座ることも少なくなりました。畳の上に座り、抹茶をいただくことで、日本建築の内部空間を体感することができます。

樋口氏から、「こうやって大学生や地域の小学生が訪れてくれることで建物が喜んでいると感じます。私はたまたまこの建物と出会いましたが、今後も建物守のような気持ちで、建物とつきあっていきたいなと思っています」とお話を伺いました。

 

旧小川家住宅外観(石垣の上に建つ)             所有者の樋口氏からお話を伺う

 

茶道の先生方から、御点前の指導を受ける

建物スケッチ中

 

 

②雲仙観光ホテル(昭和10年・1935、雲仙市、国登録有形文化財、近代化産業遺産)

 今年は縁あって、雲仙観光ホテルを見学させていただきました。旧小川家住宅から15年後に建てられた建物です。当初から、外国人専用ホテルとして建てられた内部空間は、両者の生活と文化の違いを見るのにふさわしい建物です。

 すみずみを、ホテルの木村氏、馬場氏にご案内いただきました。

40年以上お勤めになる馬場氏のお話から。

 「この建物は、上海・長崎航路を行き来する外国人の避暑のために建てられたもので、当時、全国15ヶ所に建てられた外国人専用ホテルのひとつです。また日本で最初に“観光ホテル”の名を付したホテルでもあります。建物の内部はふんだんに松材や桜材などの木材を使い、山小屋風の雰囲気を醸し出しています。柱には手斧の跡を残していて、今はこういった技術をもつ人も少なくなりました。歴代の皇室の方をお迎えした特別室もございます。以前は外国からのお客様が多く、さまざまなふれあいが印象深く残っています。広い階段やフロントの古時計なども、十分にご覧いただきたいと思います。」

 木村氏からは、「最近、内部をリニューアルしました。開業当時にあった撞球室(ビリヤード室)や図書室を再現し、客室も2室を1室に広げたりして、ゆったりと滞在いただけるようにしています。ウィリアム・モリスがデザインした壁紙を、部屋ごとに違えて用い、好評いただいています。お客様の中には、長期に滞在される方もおられ、図書室で本を楽しまれたり、思い思いの場所でスケッチをなさったり。今後もそうやって、みなさまにゆったりと時間をお過ごしいただきたいと思います。」

 ご案内いただいた後はダイニングで、パティシエ竹村健氏のお菓子をいただきました。

 

雲仙観光ホテル外観                                        ロビー

 

階段ホール、柱に手斧跡を残した仕上げ   撞球室

 

皇室の方がご利用になった特別室     ダイニングにて馬場氏からお話を伺う

 

 いずれの建物でも、見学の後は自分の気に入った場所をスケッチします。写真に撮るだけでなく、スケッチを通して深く建物と向き合うことができます。

 長崎は幸いに、大学から出かけられる範囲に時代を物語る建物があります。教室で学んだことを、実際の建物とそこに関わられる方々の話を通じて、各自の中でふくらましていってほしいと期待しています。

 今年度の授業にあたり、旧小川邸の樋口様はじめみなさま、また雲仙観光ホテルのみなさまに大変なご尽力を賜りました。心から感謝申し上げます。(報告:山田)